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横浜地方裁判所 昭和23年(行)40号 判決

原告 東海金属株式会社

被告 横浜市港北地区農地委員会・神奈川県農地委員会・神奈川県知事

一、主  文

一、被告横浜市港北地区農地委員会が昭和二十二年九月九日別紙目録表示の土地に対してなした買収計画はこれを取消す。

二、被告神奈川県農地委員会が昭和二十三年六月一日付裁決第七二号を以て別紙目録表示の土地についてなした訴願の裁決はこれを取消す。

三、被告神奈川県知事が昭和二十三年六月十五日付買収令書を以て別紙目録表示の土地に対してなした買収処分はこれを取消す。

四、訴訟費用は被告等の負担とする。

二、請求の趣旨

主文同旨。

三、事  実

原告訴訟代理人は

(一)  被告横浜市港北地区農地委員会(以下地区農地委員会と称す)は昭和二十二年九月九日原告所有の別紙目録表示の土地に対して、自作農創設特別措置法(以下法と言う)第三条第一項第五項第三号第四号の規定によつて買収計画を立て公告したので原告は昭和二十二年九月十七日同委員会に対して異議を申立てたところ同委員会は同年九月二十四日これを棄却した。よつて原告は更に同年十月二日被告神奈川県農地委員会(以下県農地委員会と称す)に訴願を申立てたのであるが、同委員会は昭和二十三年六月一日附を以てこれを棄却する旨の裁決をなし(裁決書の謄本は同年七月十四日送達された)被告神奈川県知事は同年六月十五日附買収令書を以て法第三条第九条及第十五条により右土地に対し買収処分を為し右買収令書は同年七月十七日原告に送達せられた。

しかし、被告地区農地委員会の本件土地に対する買収計画はその通知書にも明記せられている如く法第三条第一項及第五項第三号第四号の規定にもとづくものであるが同条第一項と第五項とは相容れない対象の農地を言うのであるから、そのいずれかでなければならない。本件土地は工場建設敷地で他に貸興したことはないのであるから第三条第一項の対象となるべきものでなくまた第五項第三号は法人その他の団体の所有する自作地を指し同第四号は法人その他の団体の小作地を指すのであるからこの両者も相容れない対象の農地であるからそのいずれかでなければならない。本件土地が原告の自作地でないことは被告地区農地委員会も争わないところで、これがまた小作地でもないことは以下説明する通りである。

原告は明治四十四年金属圧延業を目的として設立された法人であつて、原告は工場建設敷地に供する目的を以て、昭和十四年四月当時大部分が水田その他は畑地であつた本件土地九千余坪を一括して数名のものから買受け同年中約七万円の費用を投じて全面積に亘つて三尺乃至十尺の高さに砂礫を以て埋立てて地均しをし工場建設敷地として完成した。しかるところ本件土地が空閑地であつたため昭和十六年頃から隣接隣組農業者等四十六名がこれを不法に耕作し原告に対する明渡を拒んでおつたため工場建設の計画も妨げられておつたのであるが当時は逼迫した食糧難で公園道路その他公共施設等も一時休閑地利用の対象とされておつた際であつたから原告は強いて明渡のため強制力を用いず己むない事情として一時放任しておつた。

原告は昭和十八年から工場建設計画を進めることになつたので耕作人等に対してこれが明渡を求めたところ、一部のものを除き他は容易にこれに応じなかつたのである。そこで昭和二十二年四月以降は強硬に明渡を求めたところ同年七月十五日神奈川県小作官より原告及耕作者椎橋要蔵外四十名を相手方として横浜地方裁判所に小作調停の申立を為し、この調停においての証拠調がなされた結果、耕作人等は本件土地を、原告の承諾なく且何等の権限なく耕作していることが明かとなり、同年八月五日椎橋要蔵外四十名の耕作人は昭和二十二年十一月末日限り地上の耕作物を収去して本件土地を原告に明渡すことの調停成立し、同人等はその後右調停条項に基き土地の明渡を完了したのである。

以上の如く本件土地は自作地でも小作地でもないのであるから被告地区農地委員会が本件土地について同法第三条第一項第五項第三号第四号にもとずいて立てた買収計画は違法なものである。

(二)  被告県農地委員会の為した右裁決には左記の如き違法がある。

(イ)  右裁決は右買収計画が前述の如き違法なるに拘らず之を看過して原告の訴願を棄却した。

(ロ)  地区農地委員会が調停成立前の昭和二十年十一月二十三日の現況にもとずいて買収計画を立てたことを認容しているが、かゝる場合は、法改正前の施行令第四十五条が適用せられその時期に遡つて買収計画をすることの可否について市町村農地委員会は審議しなければならないのであるがかゝることを審議したと認むべき事実なく且議事録にもこれが審議をしたことの記載がないのであるから、遡及して認定することができない。しからば被告県農地委員会が横浜市港北地区農地委員会の右違法な買収計画を認容したことは違法である。

(ハ)  被告神奈川県農地委員会は右裁決に於て本件土地が小作地でないことを認めているのであるから地区農地委員会が本件土地を小作地として立てた買収計画を取消すべきであるにかゝわらず、本件土地を法第三条第五項第五号に該当するものとして別個の認定をなして終局において地区農地委員会の買収計画を維持しているが、これは違法な買収計画を適法と看做す結果を招来するばかりでなくその権限を逸脱している。

しかのみならず本件土地は前述のように農地でないばかりでなく、原告会社の目的から農耕をなし難く且土地は不法占有者によつて占有せられ事実上自己において耕作をなし得ない状況にあるから法第三条第五項第五号の適用を見ない。

(三)  被告神奈川県知事は右訴願の裁決によつて地区農地委員会の買収計画が効力を生じたものとして前記の如く法第三条第九条第十五条によつて本件土地を買収した。

しかしながら、前述のように買収計画及訴願の裁決はいずれも違法な処分であるからこれが有効なることを前提としてなした買収処分は違法である。

と述べ被告等の抗弁に対して

耕作人に対して野菜等を要求したこと及被告がそれを原告に提供したことはない

と述べた。

四、被告等の答弁。

被告等訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め

別紙目録表示の土地を原告が所有して居り右土地について被告地区農地委員会が原告主張の買収計画を立てたこと、これに対して原告が其主張の如く異議申立及訴願をなしたところいずれも排斥せられ、被告神奈川県知事が原告主張の買収処分をなしたことは総てこれを認める。

しかし本件土地が工場建設敷地であること耕作人が本件土地を不法に占有しておつたとの事実は否認する。

この土地はもと空閑地であつたのであるが昭和十六年暮地元農事実行組合員等が食糧増産のため耕作することを企て、椎橋仁助伊東秀輔を代表者として原告と交渉し別に期限を定めず借受け、四十数名が部落別に六組に分れ全面的に耕作を始め以来農地となつた。

その後何等の紛争なく引続いて耕作していたところ昭和十八年暮原告から土地の明渡を要求されたが耕作人等は原告の要求に応ぜず耕作を継続し、原告からは耕作人等に対して野菜類を要求し耕作人等はこれに対して原告会社の炊事場まで牛馬で野菜・小麦・甘藷等を運んでおつたのである。従て本件土地には耕作人と原告との間に使用貸借或は賃貸借契約の存在したことは明白である。原告主張の調停が成立したことは認めるがしかしこれは、耕作人等が土地を不法に耕作していたことを認めたのではなく農地改革成就の上は耕作ができるものと信じて一時明渡を承諾したのである。

以上の如くであるから右買收計画は違法ではない。

仮りに本件土地が小作地でないとするも被告県農地委員会は

審議の結果本件土地は法に云う小作地ではないが法第三条第五項第五号に該当する農地と認め、自作農創設上政府において買收することを相当と認めたので地区農地委員会と買收理由の認定を異にしたがいずれにせよこれを買收することに意見が一致したので右買收計画を維持し原告の訴願を棄却したものである。従て右裁決は違法ではない。

右の如く本件買収計画訴願の裁決は適法であり従て被告県知事の買収処分も適法であるから原告の本訴請求は全部失当であると述べた。

五、証  拠<省略>

六、理  由

別紙目録記載の土地を原告が所有して居たところ原告主張の買収計画が樹立せられ異議申立・訴願及びこれらに対する棄却の裁決竝買収処分が原告主張の如く逐次行われたことは本件当事者間に争がない。

以下各争点に付て判断する。

第一、本件土地が右買収計画に定めるが如く法第三条第一項第五項第三号第四号に該当する農地として買収することができるか。

本件土地は昭和十六年頃から附近の居住者四十数名によつて耕作せられて居たことは当事者間に争ないところであるが右耕作者達と原告との間に本件土地の使用に付賃貸借契約或は使用貸借契約の成立したことは之を認むるに足る証拠はない。証人吉田康造は「昭和十八年の春原告から耕作者等に対し土地明渡の請求のあつた際同人は原告会社に赴き会社側の鈴木某外数名の者と交渉した結果土地明渡は為さなくても良いとの諒解がついた」旨証言して居るが右証言によつては原告が土地明渡を猶予することを承諾したものと解し得るが当事者間に使用貸借契約の成立したものと断ずるに十分ではない。

加之成立に争がない甲第十一号証と証人鈴木秀蔵・松岡愛蔵・江藤直輔の各証言を総合すれば「原告は昭和十四年頃工場増設敷地として、当時は一部水田であつた本件土地を買受け約十万円近くの資金を投じて埋立工事をなし工場増設予定地としたが種々の事情から工場増設を延引しておつたところ昭和十六年暮頃から附近農家が申合せ食糧増産の見地から会社の諒解を得ることなくこれを耕作するに至つたこと。

原告会社は昭和十八年右土地が附近農家のものによつて耕作されていることを知つたので耕作人等に対しこれが明渡を求めたが多数を擁する耕作人等は当時食糧確保が緊急問題であつたので敢てこれに応じなかつたので原告はその後も数次明渡を求めたため紛糾し昭和二十二年七月県小作主事によつて横浜地方裁判所に小作調停の申立がなされ、同年八月五日耕作人は昭和二十二年十一月末迄に本件土地を明渡すことの調停が成立した。而して原告は右調停により耕作人等から該期日迄に右土地の明渡を受けその後昭和二十三年五月二十四日横浜市の求めに応じ右土地を庶民住宅建設敷地として貸与する覚書を取交したこと。」を認めることができる。

しからば、右土地は法第三条第一項の小作地でないことは明らかである。

而して本件土地が自作地に該当しないことも前段説明に徴し自ら明らかである。

果して然らば本件土地は法第三条第一項第五項第三号第四号の対象とならない土地であることは明白であるから該法条にもとずき被告横浜市港北地区農地委員会の樹てた買収計画は違法であり右買收計画は其取消を免れない。

第二、被告県農地委員会の裁決に就て。

叙上の如く被告地区農地委員会の右買収計画は違法なのであるから被告県農地委員会が之に対する原告の訴願の裁決をなすにあたつては右違法の点を指摘し買収計画を取消すべきである。然るに県農地委員会が原告の訴願に対しこれを棄却する裁決を為したことは当事者間に争ないのであるから右裁決は右買収計画の違法を看過したもので違法の裁決と謂わなければならない。被告県農地委員会は此点に付本件土地を法第三条第五項第五号に該当するものとし政府に於て買収することを相当と認めたので右買収決定を維持し訴願を棄却したのであるから右裁決は違法ではないと主張するが右裁決によつて右買収計画の違法性は阻却せらるるものではなく右裁決は許さるべきでない。

何となれば行政処分は法規を離れて存在するものでなく、其根拠となる法令を変更するときは行政処分の同一性を害し別個の行政処分となるのであるから地区農地委員会の樹てた右買収計画の根拠たる法令を変更することは県農地委員会に於て右買収計画と異なる別個の農地買収計画を樹てることとなり許さるべきではない。右別個の買収計画により農地を買收することは市町村農地委員会の樹てた買収計画によらないで農地を買收する結果を招来し法第六条第一項に反するばかりでなく土地所有者は右買収計画に対し異議の申立を為すに由なく異議申立を許さざる買収計画の存在を許すこととなる。依て右被告の主張は採用しない。

第三、被告県知事の買收処分に就て

以上の如くであるから被告神奈川県知事が右違法な買收計画を前提としてなした買收処分も亦違法であるから取消さるべきものである。

叙上の如くであり且、原告が法定期間中に本訴を提起したことは記録上明かであるから原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項を適用して主文のように判決する。

(裁判官 山本信政 亀下喜太郎 瀬戸正二)

(目録省略)

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